アイスバスの効果
アイスバスとは
5~15℃程度のお風呂のことで、クライオセラピーという冷却療法の方法としてしられており、氷を入れて水の温度を下げる方法が多く用いられるため、氷水のお風呂でアイスバスと呼ばれています。
クライオセラピーにはWhole Body Cryotherapy(WBC)とCold water immersion(CWI)に別れ、アイスバスは冷たい水に浸かるという意味のCWIに分類されます。
海外のプロチームなどでは弊社の製品のような氷を使用せずに、正確な温度管理ができるタイプのアイスバスの使用が増えていますが、日本ではまだまだ氷を入れたアイスバスが主流となっています。
クライオセラピーにおけるアイスバスは1790年にはじめての研究がなされてからこれまでに450以上もの研究がなされており、その効果からアスリートの疲労回復や、筋肉痛の軽減、美容、ダイエットのためのボディメンテナンスとして使用されるものとなっています。
最近ではラグビー日本代表の方々がアイスバスを使用したリカバリーを行っている様子が話題となったり、レディ・ガガさんが美容・ダイエットのために使用しているなどのニュースも話題となりました。他にもテニスやサッカー、野球、水泳、陸上競技、自転車競技など多くのトップアスリートたちがアイスバスを使用しています。
アイスバスの効果
トップアスリートたちはどうしてこのアイスバスを使用するのでしょうか?
それには、いくつかの理由がありますが、おおきくカテゴライズすると
・運動後の疲労軽減
・筋肉痛の抑制
の2つが大きい効果といえます。
今回はもう少し詳しく中を見ていきたいと思います。
1.炎症の軽減、筋肉の二次損傷の抑制
筋肉の炎症を抑えるために、冷却が有効ということは広く知られており、アスリートがアイスパックや冷却スプレーなどを使用して局部をアイシングで冷やしていることを見たことがある方も多いと思います。アイスパックや冷却スプレーが部分的に局所を冷やすのに対し、アイスバスは全身の広範囲を一気に冷やすことができることが最大の長所です。また、急激に冷却することで筋肉の炎症や二次的な筋肉の損傷を和らげ、筋肉の腫れを防ぐ効果もあります。
2.血管の収縮と拡張による血行の促進
疲労回復において血行の促進が大事という事は、良く言われるものであり、日本では温泉が使われることが多くあります。血行の促進は抹消の老廃物を押し流し、新鮮な酸素と栄養を供給するために重要なものです。特に激しい運動後は老廃物や炎症物質が多く溜まっており、アイスバスによる冷却は後に記載する静水圧作用と合わせて、急激に血管収縮を促しその後室温環境に戻ることで、収縮した血管を再拡張させ血行を促進させる効果があります。
温泉の血行促進効果と合わせて使用する温冷交代浴も一部のアスリートで取り入れられています。理論はサウナ後の水風呂と同様ですが、温浴単体で使用するよりも10~15℃のアイスバスと35~40℃前後の温浴を交互に使用する方法は、温浴単体よりもより一層血行促進の効果を高めることがわかっています。
3.水の圧力による血行の促進(静水圧効果)
アイスバスの効果として無視できないのが、水による物理的な圧力の作用です。
静水圧効果は、水圧により皮膚や抹消血管が圧迫されることにより、血液やリンパの循環を促してくれる効果のことです。
冷却による血管の収縮は主に筋肉や血管にとどまりますが、水による外側からの圧力は腫れに非常に効果的で、末梢の血管や皮膚を圧迫し血液やリンパを押し戻すことができ、冷却による血管収縮の効果と合わせて、非常に有用です。
リラックス作用
激しい運動後は交感神経が優位な状態になっており、休息を取ろうと思っても取れない状態となっていることが多くあります。また、運動後30分以内の食事はリカバリーにとても重要という研究結果が出ていますが、激しい運動後の交感神経優位の状態と、食事は身体の中では全く逆の状況であるため、運動後なかなか食事が取れないという方も多くいらっしゃいます。
アイスバスの使用は身体全体の温度を下げ、交感神経を抑制し身体を休息モードである、副交感神経優位の状態に切り替えることができ、しっかりと栄養補給ができる状態へと移行する事が可能です。
また、睡眠も同様でアイスバスを使用することで身体を休息しやすい状態へ持っていき、寝付きを良くしたり、良い睡眠状態にすることにも役立ちます。
その他にもこんな作用が?
アイスバスの有用性は他にもあります。例えば身体全体を冷やすことで筋肉や組織の活性を抑え無駄なエネルギーの消費と代謝を抑えることで、栄養を行くべきところに効果的に供給することや、運動後の遅発性の筋肉痛(DOMS)の軽減にも確かなデータがあり、これは翌日やその後の練習量の維持や故障率の低下にもつながってきます。
また、運動により過度に上昇した心拍数を整える効果もあることがわかっています。心拍数の量をへらすことで、身体にかかる余計な負担を減らすことにも繋がります。
近年の研究では、アイスバスを使用することが体内のミトコンドリアの生成を促進し、持久力を高める可能性があることも示唆されており、さらなる注目が高まっています。
他にもサッカーのハーフタイムにアイスバスを使用することで、後半の運動量が向上するといったデータや、試合前のアイスバスにより、体温の上昇を抑えパフォーマンスを維持する効果があるといった報告もあります。
参考文献:
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